僧帽弁閉鎖不全症の犬の余命

犬の僧帽弁閉鎖不全症

心臓病と聞けば、飼い主としては「あと、どれくらい生きるのか?」と気になるものです。
ここでは僧帽弁閉鎖不全症の犬の余命について解説します。

余命の目安

最初に、僧帽弁閉鎖不全症の犬の余命の目安をお伝えすると

  • 軽度(ステージB1) 3年後も大半の子が生きている
  • 中程度(ステージB2) 3年経つと半分くらいの子がお別れする
  • 重度(ステージC〜) 1年以内に半分くらいの子がお別れする

といった感じになります。(出典出典出典

ただし、これらの数字だけで判断するのはおすすめできません
この後の説明も読んで、余命の考えかたを理解してください。

個別の余命はケースバイケースです

あなたが本当に知りたいのは「僧帽弁閉鎖不全症の犬の余命」ではなく、「我が家の愛犬の余命」のはずです。

そして、その個別の質問について誠実に答えるなら、「ケースバイケース」が回答となります。
「〜年です」と簡単に答えられるのならそうしたいんですが、心臓病と診断されてからの生存期間は個体差が大きいため、一概に言えません

たとえば「余命 平均100日」と聞いた場合、あなたはどんなイメージを持つでしょうか?
以下のような感じでしょうか?

これなら確かに「平均100日」は参考になりそうですよね。
大半の子が100日のあたりでお別れしていますから、あなたの愛犬もそうなる可能性は高いかもしれません。

でも、こんな場合はどうでしょうか?

これも同じ「平均100日」ですが、全然違いますよね。
幅広い範囲でまんべんなく犬が死亡しており、結局お別れの日はいつかよく分かりません。

「そんな極端な例で説明されても」と思ったかもしれません。
確かにこれは説明用に極端にしてありますが、生存期間の範囲がけっこう幅広いのは本当です。

たとえば、先に示した論文では

  • 僧帽弁閉鎖不全症 ステージB1〜2の犬の生存期間の範囲 75~1,668日(出典

と報告されています。
ちなみに75日は2ヶ月ちょっと、1668日は4年半くらいです。

さて、もしあなたが獣医さんだったら、「余命はどれくらいですか?」と聞いてくる飼い主さんに何と回答するでしょうか?

何となくでも、「余命●日です」と回答するのは簡単ではなさそうと感じてもらえれば十分です。

余命宣告は当たらない

動物ではなく人間の話ですが、「お医者さんの余命宣告は当たらない」という研究があります(出典)。
がん患者の余命宣告と、実際の余命を比べて、どれくらい当たるのかを調べた研究ですが、実際の余命の半分くらいに見積もったり、6倍多く見積もったりしていたという結果になっています。

僕の診療経験からも、余命判断は本当に難しいと感じます。

  • もう駄目だと思った重症の子が何年も元気
  • まだ全然いけると思っていた軽症の子が急変しお別れ

という経験は、臨床現場に立つ獣医師なら誰もがしているんじゃないでしょうか。

余命宣告は、そこまで正確に当てられるものではない、あくまで参考程度のものだと捉えるようにしてください。

余命よりも大切なこと

余命が気になり過ぎて、目の前の愛犬や暮らしがおろそかにならないようには注意したいところです。

ネットでさまざまな情報を拾ってきては

  • 「ウチの子だと、余命はあと●日…」
  • 「ウチの子は普通よりも短い命なのか…」
  • 「最低でも●歳までは生きてくれないと…」

と、まだ元気に動き回っている愛犬をそっちのけに落ち込み続けている人がいます。
ショックだったのも、悪意がないのも分かりますが…

でも、よく考えてみれば、飼い主がすることは愛犬の余命でそんなに変わるでしょうか?

  • 短命だから優しくしよう
  • まだ生きるから雑に扱おう

あなたはそんな風に考えてないですよね?
そんな人は、わざわざ調べてこのサイトまで辿り着かないし、こんな長文も読まないはずです。

キレイごとに聞こえるかもしれませんが、一番大切なのは

余命の長さにかかわらず、愛犬と毎日を楽しく充実して過ごす

ではないでしょうか?

長生きが幸せだとしても、短命が不幸とは限りません。

たとえば僕は、生まれつきの心臓病で短命に終わった子をそれなりに診てきました。
動物たち本人が「自分は不幸だった」と言うのならともかく、周りの人間が生き抜いた動物たちに「不幸」「可哀想」とレッテル貼りをするのには違和感があります。

「短命が不幸や失敗だと決めつけて、毎日を楽しく過ごせなくなったら本末転倒ではないか?」

という視点も、良かったら持っておいて欲しいなと思います。

データはあなたと愛犬が幸せになるために使うものであり、振り回されて不幸になるためのものではありませんから、注意してくださいね。