犬の僧帽弁閉鎖不全症の診断の考えかた

犬の僧帽弁閉鎖不全症

あまり重要視されていない印象ですが、心臓病の動物と暮らす飼い主にとって、診断についての知識はとても重要です。
ここでは診断に関わる考えかたの説明をします。

診断の大切さ

心臓病と言われて不安になったときほど、大切なのは現状把握、すなわち診断です。
診断ができていないのに、治療法や対処法を考えても空振りに終わります。

これだけじゃ伝わらないかもしれないので、例を出して説明します。
セカンドオピニオンとして

  • こんなお薬を処方されています。これで合っているでしょうか?
  • あとどれくらい生きるでしょうか?
  • 運動は控えたほうが良いでしょうか?

などの質問をされることがよくあります。
しかし、こういう相談をしてくる飼い主さんに

  • 確かに心臓病と言われたんですか?
  • 具体的な病名は何ですか?
  • 病気の程度はどれくらいですか?

と聞き返すと、意外なことに、けっこうな割合で「よく分かりませんが…」と返ってきます。

あなたが獣医さんの立場だったとして考えてみてください。

  • 心臓病かは分からないが、お薬が合っているか聞かれる
  • 病名は分からないが、あとどれくらい生きるか聞かれる
  • 病気が軽いか重いかは分からないが、運動を控えるべきか聞かれる

こんな状況では回答したくてもできませんよね。
こういうとき、僕がよくする回答は「心臓の状態が不明確なら、かかりつけの先生に確認するところから始めてみては?」です。

ついつい治療法や対策に目が向くのは分かりますが、困ったときこそ、迷ったときこそ、まずは診断からです。

診断で知るべきこと

診断において、飼い主であるあなたが知るべき情報は

  1. 心臓病なのかどうか?
  2. 病名は何か?
  3. 病気の進行度はどれくらいか?

の3つです。

あなたは自分の愛犬について、これらに回答できるでしょうか?

答えられるならOKです。
答えられないなら、まだ診断がついていないか、診断の内容をあなたが理解していない状態だと思いますので、まずは診断をはっきりさせるように行動しましょう。

具体的には

  • 診断について分からないところを尋ねる
  • 診断がまだついていないなら、診断のための検査を希望すると伝える

などの行動が必要になります。

心臓病なのかどうか?

  • 本当に心臓病なのか?
  • それとも、心臓病「疑い」なのか?

をはっきりさせる段階です。

僧帽弁閉鎖不全症の確定診断には、ほとんどの場合で心エコー検査が必要です。
なにしろ「僧帽弁が閉まらない」病気なので、確定するには僧帽弁が閉まっていないのを確認する必要がありますが、僧帽弁の状態を直接調べられる検査は心エコーくらいだからです。
つまり、心エコー検査をせずにされた僧帽弁閉鎖不全症の診断は厳密には確定ではありませんので、僧帽弁閉鎖不全症「疑い」と捉えるようにしましょう。

例を挙げると

  • 聴診で雑音が聴こえたから
  • 心電図で心肥大と判定されたから
  • レントゲンで心臓が大きく見えたから
  • 血液検査で心臓の数値が高かったから

という話は、僧帽弁閉鎖不全症「疑い」と解釈してもらって結構です。

一応補足しておくと、犬の僧帽弁閉鎖不全症は非常に多い病気です。
実際のところ、フィラリア予防済みの老齢の小型犬から心雑音が聴こえたら、大抵は僧帽弁閉鎖不全症だったりします。
おまけに、心エコー検査は設備と技術が必要なため、どこでもできて当たり前ではありません。
現実的には、心エコー以外の検査の結果を組み合わせて、「おそらく僧帽弁閉鎖不全症だろう」と診断されるケースもあるかと思います。

病名は何か?

「心臓の病気があるとしたら、具体的にどんな名前の心臓病なのか?」の判断です。

僧帽弁閉鎖不全症は犬に圧倒的に多い病気ですが、心臓病は他にもいっぱいあります。
「心臓病がある」と言われても、その中身は

  • 僧帽弁閉鎖不全症
  • 僧帽弁閉鎖不全症以外の心臓病
  • 僧帽弁閉鎖不全症だけれど、他の心臓病も合併している

などバリエーションがあります。

上記のどれに当たるかで治療も変わってくる可能性がありますから、病名をはっきりさせておく必要があります。

病気の進行度はどれくらいか?

病気の進行度の判断も重要です。
同じ僧帽弁閉鎖不全症という病気でも、程度が軽いのと重いのとでは、今後の見通しも、治療方法も変わってきます。

「まだ軽い」とか「けっこう重症」などの分類でも、「ステージ●」という分類で教えてもらうのでも良いでしょう。

病気の進行度を調べるには、複数の検査を組み合わせる必要があります。
先ほど出てきた心エコー検査はここでも主力になりますが、身体検査(聴診)、胸のレントゲン、心電図、血圧測定なども、場合によっては重要になってきます。
どんな検査が必要なのかを判断するのは獣医さんの仕事ですが、飼い主としても「心エコー検査さえしておけばOKではない」とは知っておくと良いと思います。