犬の僧帽弁閉鎖不全症の進行度の診断

犬の僧帽弁閉鎖不全症

僧帽弁閉鎖不全症の確定診断や進行具合の判断はどうやってされるのか説明します。

診断のポイント

細かいところを抜きにして、僧帽弁閉鎖不全症の診断において重要なところを抜き出すと

  • 僧帽弁の状態や血液の逆流(僧帽弁逆流)
  • 心臓のサイズが大きいかどうか(心拡大)
  • 肺に水が溜まっているかどうか(肺水腫)

になります。

まとめると図のようになります。

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ステージAの診断

まず、重要なのは「ステージAは病気ではない」ということです。
「今は健康だけど、僧帽弁閉鎖不全症が多い犬種だから注意」という意味合いです。

何か検査をして判断するものではありませんし、病院で「あなたの愛犬は僧帽弁閉鎖不全症のステージAです」と診断されることもないと思います。

アメリカ獣医内科学会(ACVIM)のガイドラインでは、具体的な犬種として、キャバリア、ダックス、ミニチュアまたはトイプードルが挙げられています(出典)。
個人的には、日本なら、チワワ、ポメラニアン、ヨークシャーテリア、マルチーズ、パピヨン、シーズー、ミニチュアピンシャー、ミニチュアシュナウザーあたりも加えて考えても良いかと思います。

ステージB1の診断

ステージBから実際に僧帽弁閉鎖不全症と診断される段階に入ります。

ステージB1は「僧帽弁がうまく閉まらず血液の逆流はあるが、まだ心臓のサイズが大きくなるほどではなく、当然ながら肺にも影響は及んでいない段階」というイメージなので

  • 僧帽弁が閉まらず血液が逆流している
  • 心臓のサイズは正常
  • 肺に水は溜まっていない

ということを判定すれば、ステージB1と診断できます。

ここでは主に心エコー検査が活躍します。 カラードップラーという血液の流れが色で見える機能を使って、僧帽弁から逆流している血液を確認すれば、僧帽弁閉鎖不全症と確定診断できます。

左: 正常、右: 僧帽弁閉鎖不全症

左が正常な犬、右が僧帽弁閉鎖不全症の犬の心エコー画像です。
左の画像では、正常な血流として、赤色とたまに青色が映っています。
右の画像では、赤と青だけでなく、黄色や緑が混じり合っていますが、これが僧帽弁での血液の逆流です。

逆流の有無だけでなく、心エコー検査や胸部X線検査で心臓のサイズもチェックして問題ないことを確認します。

肺に水が溜まっていないかを調べるには、聴診で肺の音を聴いたり、胸部X線検査で肺の様子を見たりしますが、心臓が正常な大きさで肺に水が溜まるケースは稀なので、省略される場合もあるかもしれません。

ステージB2の診断

ステージB2の診断は重要です。
なぜなら、このB2から治療が開始されることが多いからです。

ステージB1とB2の大きな違いは心臓のサイズです。
心臓のサイズが正常範囲内のうちはB1ですが、心臓が大きくなってくるとB2と診断されます。

ここでは

  • 僧帽弁が閉まらず血液が逆流している
  • 心臓のサイズが大きくなっている
  • 肺に水は溜まっていない

という点を確認するので、やはり心エコー検査や胸部X線検査が重要になります。

心臓のサイズの基準

ここは専門的な話になるので、興味のある場合だけ読んでください。
細かい話に抵抗があるなら、飛ばして構いません。

「心臓が大きくなっているかどうか」を判定する基準としては

  1. LA/AO(Left Atrium to Aorta Ratio、左心房大動脈比)
  2. LVIDdN(Left Ventricular end Diastolic Diameter Normalized for body weight、体重補正左室拡張末期径)
  3. VHS(Vertebral Heart Score、椎骨心臓スコア)

の3つをもとに判断します。(覚える必要はありません)

ちなみに1と2は心エコー、3は胸のレントゲン検査の項目です。
それぞれどんなものか簡単に説明すると

  • LA/AO 左心房の大きさの指標。左心房の大きさを大動脈という血管の大きさと比べたもの
  • LVIDdN 左心室の大きさの指標。左心室の大きさを測り、それを体重で補正する計算をしたもの
  • VHS 心臓全体の大きさの指標。心臓の縦横の大きさが背骨何個分になるかと計算したもの

となります。

ステージCの診断

ステージB2とCの一番の違いは、心臓の状態ではなく、肺に水が溜まっている(肺水腫)かどうかです。

なので、この段階では

  • 僧帽弁が閉まらず血液が逆流している
  • 心臓のサイズが大きくなっている
  • 肺に水が溜まっている

という点を確認します。

もちろん心臓の状態も悪いので、心エコー検査は変わらず必要ですが、肺の状態を把握するという点において、胸のレントゲン検査の重要度が増してきます。
肺に水が溜まるほど、レントゲン写真で肺のあたりが白く映ってきます。

犬の胸のレントゲン写真

左が正常、右が肺水腫を起こした犬のX線写真です。
右側の画像の赤色で囲った部分が、左側のものより白く映っているのを確認してください。
肺に水が溜まると、このように見え方が変化してきます。

肺水腫の判断にはレントゲンが重要なのは間違いありませんが、他にも呼吸の様子や聴診の結果も参考にしますし、最近はエコーで肺も調べるようになってきています。

ちなみに、肺水腫は生き死にに関わる油断ならない状態ですが、「肺水腫=死」とは限りません。
過去に肺水腫を起こしたものの、そこから回復して今は肺に水が溜まってはなく安定しているというケースも多いですが、こういう子たちも分類上はステージCと判断されます。

ステージDの診断

ステージDの診断のキーワードは「難治性」です。

「頑張って治療してはいるが、思うように状態を良くしてあげられない段階」というイメージなので、エコーやX線の所見だけで診断できるものではなく、けっこう主観的な判断が混じります。
ACVIMのガイドラインでは「利尿薬やピモベンダンなどのお薬をいっぱい使っても心臓病による症状が抑えきれない状態」のような書き方がされています。

この段階になれば、常に心臓や肺の状態に注意が必要ですので、心エコーやレントゲン検査は変わらず重要です。

加えて、心臓病が全身に影響を及ぼし、さまざまな問題が出てくる時期でもあるため、心電図検査、血圧測定などの心臓絡みの検査だけでなく、血液検査、お腹のレントゲンやエコー、尿検査など、状況に応じていろいろな検査が必要となることがあります。

大まかに、以上のような感じで診断がされます。
生き物相手のことなので例外はありますが、一般的な例として参考になれば幸いです。