心臓病の愛犬愛猫のシャンプー・トリミングはしても良い?

飼い主にできること

「心臓病の愛犬や愛猫に、シャンプーやトリミングをしても良いのか?」という質問は多いです。

理由は、心臓の負担になって、体調を悪くしそうだから。
中には、かかりつけの獣医さんから止められたり、トリミングサロンから断られるケースもあります。
飼い主だって好んで無理なんかしたくないですが、短期ならともかく、長期間全くお手入れをせずに汚れたり臭いがしたりするのも困ります。

この記事ではそれらの問題に対して解説していきます。

結論

まず、結論は

  • 心臓病でも、大半のケースではシャンプーやトリミングはできる
  • 重症な子は興奮させないように手早く
  • 体勢作りがキモ

になります。

シャンプー・トリミングの考え方

ここからは結論よりも大切な考え方を説明します。

前提として、犬や猫のシャンプー・トリミングと心臓の関係を調べた研究はわずかです。
なので、研究データよりも、僕の知識と経験をもとにした個人的な意見が主体にならざるをえません。違う意見もあるでしょうから、かかりつけの先生とよく相談して方針を決めてもらえばと思います。

トラブルが起こる確率は高くない

「シャンプーやトリミングで心臓病の犬猫の病状が悪化し死亡する」という例は多くありません。

たとえば、トリミングなどで死亡した犬の死因を調べたとある研究では

  • 死亡したのは1歳までの子犬がメイン。老犬は約3%。
  • 心臓に問題があった子は少なかった。

と報告されています(出典)。

診療経験上でも、シャンプーやトリミングで急変した子の例は、皆無とまでは言いませんが、正直パッと思い出せないくらいです。
個人的には、適切な診断と対応のもとに行えば、トラブルが起こる確率は高くないという印象です。

心臓病の程度とリスク

シャンプーやトリミングのリスクを考えるにあたって、心臓病の程度はもちろん重要です。
軽い病状と重い病状の子を、一緒くたに扱うことはできません。

しかし、この点に関しても、参考となる研究データはわずかなので、自分の知識・経験から推測してお伝えすると

  • 軽度 大丈夫
  • 中程度 大丈夫
  • 重度 注意は要るが、できる子は多い

このような感じです。

もちろん、心臓病の程度だけでリスクは判断しきれないし、100%の保証もできませんが、おそらく、世の中で思われているよりはリスクは小さいと思います。

何にせよ、今の病状をきちんと把握することは大前提です。
「心臓病の病名と程度」がはっきりしていないのなら、まずは獣医さんと相談し、診断をしてもらいましょう。

シャンプーやトリミング「にともなう興奮やストレス」が問題

シャンプーやトリミングそのものが心臓の負担になるわけではありません。

基本的に、シャンプーの成分による問題は、皮膚の問題やアレルギーがメインです(出典)。

毛を切る、ブラシをかけること自体が、心臓に何かダメージを与えるわけではありません。
「お湯をかけるのは大丈夫?」という人はいるかもしれませんが、まさか熱湯じゃないでしょうし、仮に熱湯でも起こるのはやけどで、心臓の問題ではありません。
むしろ、人間だったら、入浴回数が多い方が心臓病が少ないという報告すらあります(出典)。
まあこの報告は前提条件がいろいろ違うので、微妙な参考情報にしかなりませんが…。

つまり

  • 誤: シャンプーやトリミングが心臓の負担になる!

 ↓

  • 正: シャンプーやトリミング「にともなう興奮やストレス」が心臓の負担になりえる。

が正しい理解です。

これは先に紹介したトリミングなどで死亡した犬を調べた研究でも述べられています(出典)。
違う言い方をすれば、シャンプーでもトリミングでも、愛犬愛猫が落ち着いていられるのなら、特別なリスクではないということです。

では、実際のところ、犬や猫は落ち着いてシャンプーやトリミングができるのか?
そこは本当にケースバイケースです。
世の中にはお風呂好きで大人しくしている子も、大嫌いで全力で逃げようとする子もいます。

なので対策は、各動物ごと、各家庭ごとに、個別で考える必要があります。

考え方のまとめ

ここまでをまとめると

  • 心臓病の犬猫がシャンプー、トリミングをしても、急変が起こる確率は高くない。
  • 重度の心臓病は要注意。軽度〜中程度はまず大丈夫。
  • シャンプー、トリミングそのものの害ではなく、興奮やパニックなどのストレスが心臓の負担になる可能性がある。
  • いかに落ち着いてシャンプー、トリミングができる状況を作るのかがポイント。

となります。

ではここからは、実践的な対策について考えてみましょう。

シャンプー・トリミング時の対策

心臓病の犬や猫のシャンプー・トリミングの対策はケースバイケースですが、

リスクの高い子は手早く最小限

これは共通の原則になるでしょう。
逆に、この原則さえ押さえておきえば、あとは「安心してシャンプーやトリミングができる体勢を作ること」が重要になります。

おそらくはトリミングサロンなどでプロにお任せするか、自分でするかの2択になりますので、順番に解説していきましょう。

トリミングサロン

シャンプー・トリミングのプロであるトリマーさんにお願いする方法です。
愛犬愛猫が通い慣れているトリミングサロンがあるなら、心臓病のことを伝えた上で、協力してもらえないか相談しましょう。

「心臓病でも受け入れてもらえるのか?」と思うかもしれませんが、ここは場合によります。
100%受け入れてもらえる方法は知りませんが、おすすめとしては

  • 心臓病だけれどトリミングをお願いしたい
  • 可能な範囲で手早くストレスをかけずにお願いしたい
  • 何かあっても責任は飼い主がとる

と伝えることです。

最後の責任の部分が引っかかるかもしれませんが、そもそも、トリマーさんにとって、心臓病の犬や猫の依頼を受けるのはリスクです。
いつもより様子に注意が要りますし、お預かり中に動物が急変したらトラブルのもとです。
そんな中で依頼を受けてもらうわけですから、飼い主側が責任を引き受けるという旨は伝えておくべきだし、それが嫌ならお願いするのはやめておいた方が良いと思います。

もっと言ってしまえば、この手の話は事前に勝負はおおよそ決まっています。
「あなたの愛犬・愛猫のためだったら、お受けします」と相手に言ってもらえるような信用を得ていれば、受けてもらえる可能性はグッと高くなりますし、その逆もまた然りです。
理想的には病気のない元気なころから、そうでなくても病状が軽いうちに、信頼関係を築いておくと良いでしょう。

ちなみに、動物病院によっては、トリミングサロンを併設しているところがありますが、こちらも有望な選択肢です。
同じ建物内に動物病院があれば、何か体調の変化が起こっても、素早く移動し、素早く処置が受けられる可能性が高くなります。
もし、かかりつけの動物病院がトリミングをやっているなら、検討してみると良いでしょう。

自宅

  • 今まで自宅でシャンプーやトリミングをしていた
  • 依頼できるところがない

などの場合は、自宅でのシャンプーやトリミングを検討することになるでしょう。
この場合、自分で愛犬愛猫のお手入れをすることになるので、「どうやったら良いのか」「気をつけることはあるのか」などの疑問が浮かぶかもしれません。

とは言え、注意点としては、トリマーさんに依頼するときと変わらず、「なるべく興奮させず、手早く洗う」が基本になります。
動物の立場から考えて、急なこと、大きなことはなるべく避ける、というイメージです。
例を挙げるなら

  • お湯の温度は先に調整しておく
  • 急にお湯をかけずに、ちょっとずつかける
  • そーっと優しく洗う
  • 優しく声かけをする

などがあるでしょうか。

生活上困らない程度に身体をきれいにできれば目的は達成なので、あれこれ頑張りすぎないようにします。
本当に動物の状態が厳しくて、普通に洗うことすらままならないときは、蒸しタオルで身体を拭いてあげていた飼い主さんもいました。

自宅でシャンプー・トリミングをするとしても、どこまでするのかという判断は、飼い主さんだけでは難しいし不安でしょうから、かかりつけの獣医さんと相談して考えることをおすすめします。

シャンプー、トリミング中に様子がおかしくなったとき

シャンプー、トリミング中に愛犬愛猫の様子がおかしくなったら、無理はせずに中止しましょう。
中止後もずっと落ち着かず、調子が悪そうなら、かかりつけの病院への相談をおすすめします。

「どんな点に注意して見れば良い?」という質問もよくもらいますが、心臓関係で言えば、呼吸が荒くなる、たくさん咳き込む、ふらついたり倒れたりする、あたりになるかと思います。
ただし、普段からいざというときのために症状を覚えておくのは大変ですし、そもそも心臓の症状だけにこだわる必要も、飼い主が症状から診断する必要もありませんので、「飼い主の目から見て、いつもと大きく違う状態ならプロに相談」とだけ覚えておくと良いでしょう。

最後に、不幸にもシャンプーやトリミングで動物が急変してしまった場合。
「自分が無理をさせてばっかりに」と、自分を責める飼い主さんもいるかと思います。
気持ちは分かりますし、確かに急変のきっかけにはなったのかもしれませんが、この場合の真の原因は「心臓がそれだけ悪くなっていたから」です。
たとえシャンプーやトリミングを中止して急変を避けられたとしても、心臓病が改善するわけではありませんから、残念ながら、その後もあらゆる理由で急変は起こりえます。
飼い主でも獣医師でも、完全に未来を予測できる人はいませんから、どんなときでも、どんなに全力を尽くしても、100%のトラブル回避はできません。
悪意をもってわざとシャンプーやトリミングをしたのでもなければ、急変の責任を自分で抱え込む必要はないと思います。

まとめ

最後にまとめると

  • 心臓病でも、大半のケースではシャンプーやトリミングはできる
  • 重症な子は興奮させないように手早く
  • 体勢作りがキモ

になります。

この情報がお役に立ちますように。